当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0193
「椛」という漢字がありますが、この中の「花」の「ヒ」という部分は、横棒が突き出るのと突き出ないのと、どちらが正しいのですか?

A

019301「椛」という字に限らず、「化」という漢字の「ヒ」の部分は、もともとは横棒が突き出る形が正しいとされています。実は図のように、突き出る「ヒ」と突き出ない「ヒ」は別の字で、突き出る方は音読みはカ、変化するという意味を表し、突き出ない方は音読みヒ、さじ(スプーン)の意味を表す漢字なのです。
これまでにも何度か書いたことがあるのですが、当館では漢字の字体について、「別の字にならなければ細かいことにはこだわらなくてよい」と考えています。そんなアバウトな当館ですら、突き出る・突き出ないという細かい差異に気を配らざるをえないのが、この2つの「ヒ」の問題なのです。まったく、困ったものです。
さて、音読みがカで、変化するという意味を表す、突き出る方の「ヒ」に、「にんべん」を付けて生まれたのが「化」という字です。このことは、この字の音読みがカであることからわかります。さらに「化」に「くさかんむり」が付いたのが「花」であることは、やはりこの字も音読みがカであることからわかるというものです。
019302だとすると、「化」も「花」も、「ヒ」の横棒は突き出なくてはならないはずです。しかし、私たちが学校で習う字では、これらの「ヒ」の横棒は突き出ません。それはなぜかと言いますと、例の当用漢字というものが制定されたときに、突き出る「ヒ」と突き出ない「ヒ」がいっしょくたにされてしまったからなのです。つまり、突き出る「ヒ」の「化」「花」は旧字体、突き出ない「ヒ」の「化」「花」は新字体ということになります。文字だけだとややこしいですから、「化」の旧字体を、画像として掲げておきます。
ここでようやく、「椛」の話になります。この字は「もみじ」と読んだり「かば」と読んだりする国字だとされています。国字といえども、この字が「花」に「木」へんがついて生まれたことは明らかです。そこで問題なのは、「ヒ」の形について、新字体の「花」と同じにするのか、旧字体の「花」と同じにするのか、ということです。
結論から申しますと、漢和辞典の世界では、当用漢字(常用漢字)に入っていない漢字については、当用漢字による字体の変更の影響は及ぼさないことにしています。「椛」は現在の常用漢字には入っていませんから、この字の場合、「ヒ」の部分は「花」の旧字体と同じく、横棒が突き出る形としているのです。漢和辞典的には、突き出る形が「正しい」というわけです。
ああ、ややこしい。もう、「突き出る」「突き出ない」ばっかりで、読み返すのもいやになりそうです。とはいえ、この字に関しては、突き出る・突き出ないは意味のある違いです。意味のある違いにはこだわり、意味のない違いにはこだわらない、それが漢字に対する適切な姿勢なのではないかと思います。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア