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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0132
「発足」という語はハッソク・ホッソクの2つの読み方がありますが、いったいいつごろから、どちらも正しいとされてきたのでしょうか?

A

異説もあるようですが、「発」をハツと読むのはいわゆる漢音で、ホツと読むのは呉音だとされています。一般に呉音は、仏教関係のことばや、漢音が入ってくる以前に日本語に定着していた古いことばに、よく使われます。しかし、この「発」については、仏教にあまり関係のない「発疹」(ハッシン・ホッシン)、「発作」(ホッサ)などの例もあって、なかなか悩ましい問題です。
佐藤喜代治『日本の漢語』(角川小辞典28)に、「発動」「発熱」「発作」「発起」「発足」「発端」「発露」の各語についてその読みの歴史的変遷を調べた研究があります。それによりますと、「発」で始まる熟語には仏典で用いられるものが多かったため、古くは呉音のホツで読むのが優勢で、そのせいか、仏典に出てこないことばも呉音で読むことが多かったようです。しかし近世になって、漢音のハツが優勢となりましたたが、現在でも呉音で読むこともある、という流れのようです。
さて、問題の「いつごろから」ですが、同書によりますと、室町時代の末期にキリシタン宣教師たちが作った『日葡辞書』(にっぽじしょ。日本語とポルトガル語の対訳辞書)には、「発足」にハッソク・ホッソクの両方の読みが記載されています。つまり、今から400年も前にはすでに「ハッソク」という読みが一般的に行われていたことになるのです。問題の根は、かなり深いのです。
しかし、上に掲げた語のうち、「発動」「発熱」「発露」については、現在ではホツと読むことはほとんどなくなっていることからしますと、これからも長い年月をかけて、ホツからハツへの変化が進んでいくのではないでしょうか。

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