当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0073
「俗字」と「略字」の違いについて教えてください。

A

用語集の俗字のところでも触れましたが、公式な場で用いられてきた標準的な「正字」に対し、主に世間一般で用いられてきたとされる異体字のことを「俗字」と言います。つまり、俗字とは、その字体が用いられる場面によって異体字を分類した場合のカテゴリーだといえます。
一方、「略字」はあくまで字形に着目したカテゴリーで、簡略化されているかどうか、というのがその基準になります。では、簡略化されていな字体の方をなんと呼ぶかというと、これがまた「正字」と呼ばれることがあるのが、ややこしいところです。
たとえば、現在、私たちが一般的に使っている「国」という字は、旧字体では「國」と書きます。ここでその字形に注目すると、「国」は「國」の略字である、と考えられます。これを逆から見ると、「國」は「国」の正字である、ともいえなくもないのですが、ところが、現代日本で用いられる場面に注目すると、『常用漢字表』で定められている以上、「国」の方が正字である、ということになるのです。
つまり、分類の視点が違う以上、略字であっても正字、ということがありえるわけです。そしてまた、「正字」という概念は時代や場所によって変化する可能性があります。現在、中国で使われているいわゆる簡体字は、名前の通り、全て略字であるわけですが、それが政府によって定められている以上、同時に正字でもあるのです。
というわけで、俗字と略字は、正字という概念を挟んで微妙に対立しているのです。なお、以上は、私ども大修館書店漢和辞典編集部が、さまざまな議論を経つつ、現時点で一番妥当だと考えている見解です。どのような異体字のカテゴリーにどのような名前を与えるかについてはいろいろな意見があって、一致した見解がまだないことをお断りしておきます。

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