当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0033
おそば屋さんの看板などで、「處」によく似た字を見かけることがあるのですが、漢和辞典を捜しても出てきません。あれは何ですか?

A

003301たしかに、おそば屋さんやお寿司屋さんなどには、写真のような字を書いた看板が掲げられていることがあります。書いてある場所から考えると、どうも「處」(「処」の旧字体)のようですが、形はだいぶ違います。場所柄からして、酔っぱらいが書いたのでは、などと疑ってみたくもなります。
まず、下半分ですが、これは「匆」という形をしています。「虍」とこの形から成る漢字は、『大漢和辞典』にも出ていて、「處」の異体字です。「匆」の音読みはソウ、「處」がもともと「虍」と「処」から成り、「処」の音読みがソウと比較的近いショであることを考えますと、それほど大騒ぎする異体字ではなさそうです。
問題は上半分で、これはちょっと目には「雨」のように見える形をしています。現在ではなかなか目にすることがない形ですが、調べてみますと、昔は、手書きの場合は「虍」をこう書くことが多かったようです。
003302ここに掲げたのは中国の唐の時代(7~9世紀ごろ)の石碑に刻まれた「處」の字です。まさしく、おそば屋さんの看板と同じ形。この字だけでなく、「虚」「虜」「虞」などを調べてみても、ほとんどが「虍」の部分を同じように書いています。
これらを総合しますと、この字は「處」の異体字であると判断できます。むしろ、我々が今使っている漢字よりも由緒正しい文字であるといってもよいかもしれません。酔っぱらいが書いたのでは、などと考えていたのは、とんでもなく失礼なことなのでした。

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