当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0151
腸などの一部分が飛び出る症状を「憩室」というのですが、この場合の「憩」は、どういう意味で使われているのでしょうか?

A

医学にうとい私にとっては、聞き慣れないことばですね。早速、『大漢和辞典』で「憩室」という熟語を探してみましたが、残念ながら収録されていませんでした。小学館さんの『日本国語大辞典』も見てみましたが、こちらには収録はされているものの、用例などは特に挙がっていません。
これらから考えますと、このことばは、中国医学から来ていて漢籍に用例のあることばでもなければ、江戸時代の蘭学者が作り出したことばでもなく、比較的新しいことばである可能性が高いと思われます。
さて、問題の「憩」ですが、この漢字は基本的には、「休憩」という熟語としてよく使われるように、「やすむ、いこう」といった意味しかありません。それがどうして腸の異状を表すようになったのでしょうか?
「憩室」は英語では、diverticulumといいます。ここから先は推測なのですが、このことばは、divertと関係があるのではないでしょうか。divertとは、脇へそらす、という意味ですから、腸の一部が飛び出て、消化されたものがそちらへそらされてしまう状態と、ぴったり一致します。そして、このdivertには、気をそらす、気を晴らさせる、楽しませる、といった意味もあるのです。ここまで来れば、「憩」という漢字の意味まで、ほんのちょっとでたどり着けそうです。
おそらく、「憩室」ということばは、明治以降の学のあるお医者さんが、原語の意味をあまりに巧妙に漢字に置き換えてしまったために、現在の我々にとってはちょっと意味のわからなくなった、そんなことばなのではないでしょうか。

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