当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0134
以前、テレビで放送されていたドラマ「トリック」に、「門」がまえに「火」を書く漢字が出てきました。番組では「誰も読み方が分からない、読んでもいけない字。」となっていましたが、いったいどういう字なのですか?

A

このご質問、たくさんいただきました。さすがに高視聴率ドラマだけはありますね。私は、「トリック」は第1シリーズからのファンであるにもかかわらず、この回は見逃してしまったのです!全く!!
013401というわけで、どういう流れでこの漢字が出てきたのかはわからないのですが、あの凝ったドラマのことですから、見つけるのはたいへんかな、と思いながら探してみると、意外とあっさりと見つかりました。ちゃんと『大漢和辞典』に出ているのです。たまには『大漢和』の本文をお目にかけるのもよろしいかと思いまして、証拠代わりに図に掲げておきました。
この漢字、音読みはリン、意味は「火のさま」とあります。『説文解字』にも出ているとありますから、かなり古くからある漢字です。しかし、用例もないようですからどんな「火のさま」なのかは、わかりません。リンと読んで火に関係する漢字といえば、「燐」があります。「燐」はもともと鬼火を表す漢字ですから、「門」がまえに「火」の漢字も、同じような火を表すのかもしれません。もっとも、これは全くの当て推量です。
ところで私が気になるのは、どうして「トリック」では「誰も読み方が分からない」とされていたのか、ということです。ドラマ製作の人たちは、この漢字があるかないかくらい、調べたはずです。『大漢和』を調べなかった、ということも、もちろん考えられますが、「トリック」ファンとして、また『大漢和』発売元の社員として、そんなことはあんまり考えたくはありません。
むしろ、私が推測するのは、『大漢和』を調べたけれど、この漢字を見つけられなかったのではないか、ということです。というのも、この漢字、部首は「門」ではないのです。火に関係する漢字ですから、部首は「火」なのです。つまり、「門」がまえの4画のところを探しても、この漢字は見つからず、「火」の8画のところを探さなくてはならないのです。
漢和辞典には、このようにちょっとトリッキーなところがあります。そこで、この推測が当たっているとすると、「トリック」の製作者の方々は漢和辞典のトリックに引っかかった、と言えるのではないか、などと考えてしまうのですが……。

(注)その後、読者の方から、この字は日本では「門のところでたく迎え火」の意味で用いられることがある、というご指摘をいただきました。

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