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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0188
漢和辞典を調べると「体」の旧字体は「體」だと載っていますが、どうしてこんなに違う字体が新字体になったのですか?

A

たしかに「體」は23画、「体」は7画ですから、画数だけ見ても大きく違いますね。当用漢字の新字体が制定されて、書くのが楽になった漢字の代表格だといってもいいでしょう。
この「体」という漢字は、もともとは「からだ」という意味の漢字ではなく、「劣る」とか「荒い」という意味の漢字で、音読みもホンだったと言われています。しかし、近世に編纂された日中両国の異体字辞書には、「体」という字が「體」の俗字として多く採録されていますから、早ければ12~13世紀ごろには、この字を「體」の代わりに用いることがあったのではないかと推測されます。
さて、ではどう省略していけば「體」が「体」になるのでしょうか。おそらく、その過程には「軆」「躰」という字体が介在していたのではないかと思われます。まず、どこかのめんどくさがり屋さんが、「體」を少し省略して、「軆」という字体を生み出したのでしょう。「骨」も「身」も同じようなものですから、あるいは省略という意識ではなかったのかもしれません。
次に、やはりどこかのめんどくさがり屋さんが、「軆」を省略して「躰」としてしまったのでしょう。「からだ」と言えば「身」の「本(もと)」ですから、画数が少ないだけではなく、意味的にもうまい省略です。江守賢治著『漢字字体の解明』によれば、この「躰」の字は、当用漢字の制定以前、手書きの世界ではよく使われたものであったようです。
「躰」まで来てしまえば、「体」まではそんなに遠い距離ではありません。3番目のめんどくさがり屋さんが登場して、最後の総仕上げを行ったというわけです。
以上は1つの説明ですが、そんな複雑なことを考えなくても、1人の偉大なめんどくさがり屋さんを登場させることで、問題を一挙に解決してしまうこともできます。つまり、「からだ」というのは「人」の「本体」だというわけで、最初から「体」という字を創作してしまった、めんどくさがり屋さんの英雄を想定すればいいのです。
さて、どちらの説を採るにせよ、現代に生きる私たちは、こんな簡単な字を作って手書きのめんどうを軽減してくれためんどくさがり屋さんたちに、感謝すべきなのでしょうか。それとも、伝統的な字体を壊した張本人として、彼らを非難すべきなのでしょうか。一概には結論の出ない問題だと思います。

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