当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0319
先日、小泉首相が「罪を憎んで人を憎まず、とは孔子のことばだ」とおっしゃっていましたが、本当なのですか?

A

ありましたねえ、そういうご発言。そこで早速、小社の漢文名言辞典』(鎌田正・米山寅太郎著)を調べてみました。
同書によりますと、「罪を憎んで人を憎まず」ということばそのままの形ではありませんが、次のような文章が、『孔叢子(くぞうし)』という本に出ているとあります。現代仮名遣いの書き下し文で引用します。

孔子曰(い)わく、「可なるかな。古(いにしえ)の訟を聴く者は、其(そ)の意を悪(にく)みて、其の人を悪まず。」

孔子は、昔の裁判官は、罪を犯した人の心を憎んだのであって、その人を憎んだのではない、と言っているわけで、これが「罪を憎んで人を憎まず」の出典だとされています。
ただし、このことばが本当に孔子のことばであるのかどうかについては、疑問もあります。というのは、『孔叢子』なる書物はもともと、孔子が死んでから300年以上も経った前漢王朝の時代に書かれたものであるとされていたのみならず、いやそれもあてにならない、もっともっと後の時代に書かれたものだという説まであるからです。
まあ、私たちにとっては、誰のことばであるか(其の人)が重要なのではなく、このことばの持つ意味(其の意)の方が重要なわけです。我が宰相殿に敬意を表して、これ以上の詮索は、よしておくことにいたしましょう。

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