当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0387
「上野公園」の「園」と、「馬事公苑」の「苑」には、意味の違いや使い分けがあるのでしょうか?

A

紀元1世紀の終わりごろに作られた字書『説文解字(せつもんかいじ)』によりますと、「園」は果樹を植えるところ、「苑」は鳥や獣を飼うところ、となっています。これが定説であれば説明も簡単でいいのですが、他にも、垣根で囲ったのが「園」で、土手で囲ったのが「苑」だ、なんていう説もあったりして、はっきりしたところはよくわかりません。漢字の歴史は長いですから、おそらく時代によって、あるいは地域によって、両者の使い分けもさまざまに変化したことでしょう。
そこで、ここでは現代の日本に絞って考えてみることにしましょう。現在、常用漢字に指定されているのは「園」だけですから、原則としてこちらを使うのがふつうだとされています。実際、1956(昭和31)年に国語審議会がまとめた「同音の漢字による書きかえ」という報告書では、「苑地」は「園地」に書きかえる、ということになっています。つまり、「苑」と「園」に微妙な意味の違いがあったとしても、現在では両者の意味を含めて「園」で表してよい、というのです。
しかし、すべて書きかえてよいとしても、その「原則」をわざわざ破ってまで「苑」を使うケースがあることも確かです。だとすると、そんな場合には、「原則を破りたい」というなんらかの意識が働いていると考えることができるでしょう。
つまり、「園」ではあまりに月並みだ、うちはちょっと違うのだ……。そんな意識が働いたとき、「苑」が選択されると考えられないでしょうか。その際、「苑」に託されているのは、稀少価値であったり、高級感であったり、あるいは他者とは違うという、特別な意識であったりするのでしょう。
「馬事公苑」といえば、東京は世田谷にある公園が有名ですが、全国各地に同名の施設があるようです。この「公苑」を初め、「霊苑」「墓苑」「茶苑」「学苑」など、わざわざ「苑」を用いて付けられた施設名には、それぞれの思い入れが込められているのです。

  • facebookでシェア
  • twitterでシェア