当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0318
私の友人のお名前に、「檜」の「日」の上の部分が「由」となっている字があるのですが、そのような漢字は存在するのでしょうか?

A

031801ご質問の漢字は、図のようなものでしょうか?だとすると、事情は少々複雑なのですが、実在すると思います。
一般社会ではあまり意識されていないのですが、漢字にも本来は、英語のアルファベットと同じように、筆記体と活字体があります。手で書く場合の字体と、活字で表される場合の字体の間には、微妙な違いがあるのです。
031802たとえば、写真をご覧ください。「株式会社」の「会」の部分が、上図の「檜」から「木」を取り去った形をしていますよね。「会」の旧字体は「會」ですから、この看板の漢字は間違っているようにも思えます。しかし、なにを隠そう、これは『大漢和辞典』をお作りになった諸橋轍次(もろはしてつじ)博士の手になる、小社の看板の一部なのです!
小社の看板だから「間違いではない」と言おうとしているわけではありません。実際のところ、「會」の字を毛筆書きしているものを見てみると、このように、「日」の上の部分を「由」のように書いているものが多いのです。つまり、この字については、活字体と筆記体との間に違いがあると考えられるのです。
そこからしますと、「檜」を手書きするときに、同じような字体を用いたとしても不思議なことではありません。そして本来なら、手書きでそのように書いていても、活字になるときには「檜」と表現されて、全然かまわなかったはずなのです。ちょうど、アルファベットの筆記体の原稿が、活字ではきちんと活字体で印刷されるのと同じように。
ところが、ここで厄介なのは、この2つの違いは、あくまで「筆記体と活字体の違い」であることを、現代に生きる私たちのほとんどは、忘れてしまっているということです。その結果、現在ではこの2つは別々の漢字であると認識されることになります。最初に「事情は少々複雑だ」と申し上げたのは、そういう意味です。
アルファベットの場合は、筆記体で書いたものが、活字体で印刷されてもだれもヘンには思わないのに、漢字の場合はそうはいきません。そこに、漢字の不思議があると、私は思います。

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