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漢字Q&A

漢字Q&A

以前の漢字文化資料館で掲載していた記事です。2008 年以前の古い記事のため、ご留意ください。

Q0306
「沢」の旧字体は「澤」、「釈」の旧字体は「釋」なのに、「尺」には旧字体がないのはなぜですか?

A

030601同じような例は他にもあります。「駅」の旧字体は「驛」ですし、「択」の旧字体は「擇」、「訳」の旧字体は「譯」といった具合です。これらはみな、旧字体では図のような部分が、新字体では「尺」になっています。
この法則からすれば、「尺」の旧字体が上図の字であると予想しても、あながちおかしな話ではありません。しかし、実際は、上図の字は音読みでエキ、「うかがい見る」という意味の漢字で、「尺」とは全くの別物です。
これは一瞬、不思議な現象のように見えますが、そんなことはありません。「独」の旧字体が「獨」であり、「触」の旧字体が「觸」であっても、「虫」の旧字体は「蜀」ではありません。新字体というのは簡略化された字体ですから、簡略化の結果として、もともと存在した簡単な字と見かけが偶然同じになってしまうことがあるのです。
そんなことよりも、「尺」の場合、問題をより複雑にしているのは、その音読みがシャクであることでしょう。「釈(釋)」の音読みシャク、「沢」の音読みタク、「択」の音読みタクなどを考えると、これらは形声文字の原理で成り立っていて、「尺」はその発音を表していると想像できるからです。
しかし、「尺」と「釈(釋)」「沢(澤)」「択(擇)」とは、字源的には何の関係もありません。音読みが類似しているのも、これまた偶然なのです。
そう考えると、「尺」とこれらの漢字の関係は、偶然が重なった奇跡的なケースだということができるでしょう。

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