当館では、『大漢和辞典』を始めとする漢和辞典を発行する大修館書店が、漢字や漢詩・漢文などに関するさまざまな情報を提供していきます。

漢字Q&A

漢字Q&A

Q0535
「竈」の下の部分の筆順がわかりません。いろいろな辞典で調べても、この字の筆順が載っていないのはなぜでしょうか。

A

 漢字の筆順については、漢字Q&A〈旧版〉でもたびたび取り上げています。Q0103にあるように、現在日本で筆順の基準とされているのは、文部省『筆順指導の手びき』(1958年)です。ここには、当時の当用漢字881字についての筆順が掲載されているだけですので、それ以外の字については、同書に示されている「筆順の原則」に基づいて類推するしかありません。
 多くの学習用漢和辞典では、現在の常用漢字や人名用漢字について、この「筆順の原則」に基づいて類推した筆順を掲載しています。辞典に収録しているすべての漢字に筆順を載せることは、スペースの関係から難しいので、書かれることの多いであろう常用漢字や人名用漢字に限定しているのです。しかし、「竈」(ソウ/かまど)は、現在の常用漢字・人名用漢字にも含まれていませんので、漢和辞典にはなかなか筆順が載っていないのが現状です。
 そうすると、自力で「筆順の原則」に基づいて筆順を導き出すしかないということになります。とはいえ、この「竈」の下の部分はなんとも変な形ですので、自力で筆順を考えるのもなかなか難しいものがあります。何か他の方法はないでしょうか。

  そこで、「竈」ではなく、この下の部分「黽」を使っている字が他にないか、探してみましょう。ちなみに、この「黽」は「モウ」と読み、あおがえるの象形です。部首にもなっているので、まず『新漢語林 第二版』の「黽」の部首のところを見てみると、ごちゃごちゃした難しい字ばかりで、常用漢字や人名用漢字はありませんので、残念ながら筆順も載っていません。
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 それでは、「黽」の部首ではないけれども「黽」を使っている字はないでしょうか。パッと思いつけばよいのですが、思いつかなければ、パソコンや電子辞書など、文明の利器に頼ってみましょう。例えばWindowsのパソコンであれば、「メニュー」のアイコンから「文字パレット」を選びます。出てきたウインドウの「漢字検索」タブを選び、検索条件の「部首」に「黽」を入れます。検索結果は以下の通りです。
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 文字パレットで部首検索をすると、「黽」の部首に属さない、「黽」の部品を持つ漢字がすべて表示されます。しかし、この中にも常用漢字や人名用漢字はないようです。となると、お手上げでしょうか……。おや、よく見ると、上の行の左から二つ目の「繩」やその次の「蠅」あたりは、見覚えのある字ではありませんか? 「繩」は「縄(なわ)」の旧字体、「蠅」はハエです。いずれも常用漢字や人名用漢字ではないものの、他の漢字よりはなじみがあるはずです。(新字体の「縄」は常用漢字です。また、「蠅」は印刷標準字体です。)
 このあたりの字であれば、筆順を載せている辞典がありそうです。探してみますと、漢和辞典ではなく、文字を書く用途に特化した「筆順字典」の中に、「繩」や「蠅」の筆順を載せているものを発見しました! 残念ながら、小社の本ではないのですが……。
Q535_photo2 高塚竹堂筆『書道三体字典 第七版増訂版』野ばら社

Q535_photo3    Q535_photo4  江守賢治編『楷行草筆順・字体字典 第二版』三省堂

 いかがでしょうか。これらによれば、「黽」の上部をまず書いて、次に真ん中の縦線2本を書き、最後に左右の部分を真ん中の縦線にくっつけるように書く、というのが大まかな筆順です。一番迷いそうな真ん中の縦線2本の部分は、右側の“|”を先に書き、次に左の“乚”を書く、というのがオーソドックスな筆順のようですが、三省堂の「蠅」では、左の“乚”の方を先に書く方法も紹介されていますね。

 このように、筆順には、ある程度の自由があります。日常生活においては、無理なく美しく書ける筆順で書けば、問題ないでしょう。とはいえ、「黽」はどんな筆順で書いても書きづらいよ、なんて声も聞こえてきそうですね。(編集部)

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